冠山(シタ谷)

行年月日: 1987/7/5地形図: 5万図/冠山、2万5千図/美濃徳山・冠山 記録者:OT

コースタイム

徳山村シタ谷出合7:2010:30冠滝下冠滝上11:4012:40冠平冠山15:30冠山峠

記録

 今年(1987年)の梅雨は陽性で、週末に晴れてくれるのが嬉しい。先週の「滝又谷から若丸山」に引き続き、今週はお隣の「シタ谷から冠山」に挑戦と相成った。題して「C級の沢登り」。 本コースを既に二登している山根師匠がトップ。不肖の弟子手塚がセカンドのオーダーで遡る。シタ谷下部は傾斜の緩いアシ原の中を行く。中流部は小滝が連続し、右に左に屈曲しながらぐんぐん高度を上げる。ナメ滝は滑りやすいので要注意。上流部は直登不能の10m滝に始まり、右岸を高巻く。圧巻は両側に大岩壁がそそりたち、源流の水が漏斗状に収斂するその一点に轟々と落下する25mの冠滝である。ここはザイルを結んで慎重に登る。山根師匠がトップで下段右側にザイルを伸ばす。残置ハーケンにビレーを取りながらきわどいへつりで上段に移る。ここはホールドの少ない岩溝の中を激しく水が流れ、最も緊張する所だ。確保する手にも力が入る。滝上でジッヘル用ハーケンを打ち、今度は山根の確保で手塚が登る。

 滝上の狭い岩壁の窓からは千回沢山が望まれる。狂奔落下する白い瀑流と咲き乱れる花、そして波濤のように連なる奥美濃の山々、しばし時を忘れる。冠平へは沢の流れがすぐに細くなり、けっこうな薮こぎとなる。体力の消耗が激しい。這うようにして辿り着いた冠平は、冠山の北東に開けた平坦地で、草原と笹原の広がる山上の別天地である。ここで奇しくも冠山峠から登ってきた別動パーティーに会い、感激の握手をする。

 冠平には昭和30年11月に起きた福井銀行の一行の遭難碑があり、天候が荒れた時のこの山のきびしさを物語っている。冠山の頂へはここからほんのひとあし。シーズンには美しい花の咲き乱れる道を辿る。展望は360度、特に南側が揖斐川に向かってすっぱりと切れ落ちていて、素晴らしい高度感が得られる。奥美濃では最も展望の良い山頂の一つであろう。

 帰りは冠山峠への道を辿る。山頂からいったん冠平へ戻り、西にトラバースするようにつけられた道がそれである。周囲は灌木から次第に鬱蒼としたブナの林に変わる。ブナ林を抜けると緩やかなアップダウンのある良く踏まれた道が、車の越せれる冠山峠へと我々を導いてくれる。振り返れば冠山の岩峰が奥美濃離れした景観で聳えていた。

<メモ> 冠滝の名前は、日比野和美編「百山百渓」より頂いた。この滝にふさわしい名前だと思う。この滝の登攀はかなり難しい。熟達したパーティーにのみ勧めたいコースである。